苦手な男子

2/8
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「ゆき~!帰るよ!」  放課後になると、隣のクラスの琴音が大きな声で迎えに来る。 「おまえ、声でっけえよ」 「そっちのクラス、終わるの早くね?」  琴音の登場に反応して、男子たちが群がっていく。  私は男子たちと琴音が喋っていると、邪魔しないように少しゆっくり目に支度をする。 「もう、ゆきってば遅い!新しくできたパンケーキのお店、すぐに行列ができるんだから」  廊下から叫ぶような声が飛んでくると、琴音の周りにいる男子たちが「あの店行くの?俺も行っていい?」「先に並んでおいてやろうか?」って、気を引きたくて口々に言う。  そんな様子を冷ややかな目で女子たちが見ていて、「毎日凄いよねえ」なんて嫌味っぽい陰口を叩く。  琴音はとにかく美人で気さくで男子に大人気だ。  だけど、裏表がなさ過ぎて思ったことを腹に溜められない性格で、正義感も手伝ってストレートにものを言いすぎるから、そういうのが苦手な一部の女子には敬遠される。 「やだよ。あんたたちが来ると、ゆきと話せなくなるんだもん」 「大丈夫、大丈夫。ゆきちゃんは琴音の隣だから!」  男子たちが嬉しそうに私の方を振り向いて、「俺たちも一緒に行っていい?」「良かったら俺ら席取りに行くよ」って手を振ってくる。  メンバーを見て、少しホッとする気持ちを感じた。苦手な彼がいなかったからだ。 「いいよ、お願い」  私はゆっくりと鞄に荷物を詰めながら、笑顔でそう答える。 「ゆき!嫌ならそう言っていいんだよ!!」  琴音が目を吊り上げているけど、私は首を横に振って「嫌じゃないよ」と笑った。  男子たち5~6人が「やった!」とガッツポーズをして嬉しそうに駆けて行ったのが見えた。 「毎日、大変だね」  隣の席からその様子を見ていた美香が小さくため息をついて、同情するような目でこちらを見た。 「そんなことないよ」  私は笑って美香に手を振ると、廊下で待っている琴音の方へ小走りで行った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!