一 そうよ出会いは突然に

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一 そうよ出会いは突然に

 秋は深まり日も落ちて、夜と呼ばれる時の刻。九重更紗(ここのえさらさ)は学校に忘れ物をして取りに戻った。その帰り道のこと。 「はぁ、忘れ物なんかするんじゃなかった」  月の出ていない夜は暗かった。それに、ちょっと寒くもある。  まだあどけない、少女の顔を困らせて、更紗は溜息をついた。 (こんなとき、お姉様がいてくれたらなぁ……)  いつものように、更紗は理想のお姉様を思い浮かべて、ほっこりと笑った。  この妄想はもう病気のようなもので、更紗は何か困ったことや嫌なことがある度、頭の中に思い浮かべたお姉様から元気をもらっていた。  幼いころ、友達からどうして王子様ではなく、お姉様なのかと聞かれたことがあった。 (運命? 必然? もしかして、前世の恋人だったりして、きゃっ!)  考えてみても、やっぱり答えなんてわからない。わたしはお姉様が好き。好きなものは好き。ただそれだけなのだから。 「くしゅ」  いけない。こんなところでぼんやりしていたら風邪をひいてしまう。  更紗は教室から持ってきた忘れ物のノートを抱きしめて、一歩を踏みだした。  校舎から校門への道を照らす電灯は、ぽつんぽつんとしていて、小さくて頼りない。明るさが弱いくせに、電灯の背が高いので余計にそう思う。  夏が過ぎてから、日に日に太陽が沈む時間が早くなっていた。もう秋なんだな、と実感する。時折吹く風も、季節を感じさせる。  いつの間にか早足になっていたのをそのままに、更紗は校門へと急いだ。  やっとの思いで校門へと辿りつく。明るい光に照らされて、安堵の溜息がもれた。  出入りを警戒しているのか、門の上に灯された電灯は大きく、安心感がある。出口だから余計にそう感じるのかもしれない。  怪談が飽きることなく生みだされる環境なだけあって、学校は夜に行くととても怖い。だからこそ、他より明るいこの場所は、なんだか安全地帯のように思えた。  少し落ち着いた心地で、明るく照らされた門をくぐろうとした。  そう、大きくてとても明るいから、冷たい鉄の門を抜け、こちらにやってくる人影がはっきりと見て取れた。 「ひっ」  突然湧いてでた人の気配に、思わず悲鳴があがる。  なんてことはない。自分と同じ、忘れ物を取りに来ただけだろう。そう思い直し、門をくぐり抜けてきた人物に視線を向けた。  更紗は再度の悲鳴をあげた。
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