日常と体重計

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日曜日の夕方、脱衣所の真ん中には、ピンク色の体重計がでん、と居座っていた。 日曜日は、お風呂で汗を流す前に、体重をはかる。社会人になってから、そう決めていた。 毎日はやらない。嫌になるから。 私が社会人になって、2年が過ぎた。 主な仕事は、経理などの事務作業。 オフィスで座りっぱなしの仕事ばかりをしていたら、私の体重は、大学を卒業したときよりも15キロ以上も増えてしまった。 体重増加の原因は、それだけじゃない。 プライベートな時間で全く運動をしていないことと、お菓子の食べ過ぎだ。 机に山積みの仕事に追われる毎日が辛くて、家に帰ってからは、寝ている時間を除くと、常に何かを食べてしまっている。 手が止まらないのだ。 体重が60キロを超えたころから、ダイエットという言葉が、頭をよぎるようになった。 だけれど、どうにもふみきれない。 やせて着たい服もない。彼氏が欲しいという気持ちにもならない。 「そろそろ体重を落とさないと、着る服がなくなるかもしれないよ」 友人達から茶化されることが嫌で、遊びの誘いも断るようになった。 それだけ私はお菓子が好きなのだ。 だから、仕方がない。 つらつらと言い訳を思い浮かべながら、私は、電子体重計に片足をかけた。 裸にバスタオルを一枚巻いた、いつものスタイルで。 体重を先週にはかった時は、68キロだった。 流石に体重が70キロを超えてしまったときは、ダイエット食品生活をおくらなきゃなあとは思っている。 まあ、多分、オーバーはしていない、はず。 体重計に乗ると、すぐに電子音がなって、画面に体重が表示される。 『70.2』 予想外の数字だった。 冷や汗をかきながら、私はそっと体重計から下りた。 バスタオルの結び目がほどけて、床に落下する。 「そっか。バスタオル分の重さを引いたら、70キロより軽くなるんだ!バスタオルって、200グラムより重いもん。うん、ギリギリセーフ」 体重計に表示されたままの数字を目に入れないようにしながら、私は体重計を棚に戻す。 いつもお風呂あがりに食べるバニラアイスは、今から楽しみになってきた。
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