分岐点

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 それはほんのついさっきの出来事だ。私は助手席に座り、運転席には私の彼女が運転をしていた。彼女が私の仕事終わりの時間に合わせて迎えに来てくれたのだ。そしてそのまま食事に向かうことになっていた。彼女は頬を赤く上気させながら、楽しそうに今日あった出来事を話しながら運転をしていた。信号が赤で停車中、彼女は私の少し疲れた顔に自分の顔を近づけて「お仕事お疲れ様」とねぎらってくれた。私は普段の彼女とは違う香水の香りに鼻をくすぐられる。そして青になり彼女は車を発進させた。  そして、私の目の前に大型トラックが現れ、私は声を上げて目をつぶった――  来るべきはずの衝撃がなく、目を開けると、トラックが目の前で止まっていた。正確には停車したのではなく、私たちの車と衝突するギリギリのところで止まっていた。運転席の彼女を見てみると、彼女も驚愕の表情で、ハンドルを握りしめたまま止まっていた。正面を見ると、トラックの若い運転手の顔も目を見開いた状態で固まっているのが見える。窓の外には走っているはずの車や、歩道にいる人たちも全てが固まっていた。町にあふれかえっている音すら聞こえない。まるで、写真で切り抜かれたかのような光景が広がっていた。
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