第1章 刃の折れた侍

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【その男は、ふらっと現れた】 「待てコラァ! 」 腰に刀を差した威勢のいい男が町娘を追いかける。逃げる町娘。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、まだ追ってくるでやんす。」 生い茂る草道を走る町娘。娘を追いかける男。草道を走り続けていると大きな野原に出た町娘。そこで男に追いつかれ捕まってしまう。 「もう、逃げられねぇぞ、へへへ」 不気味に顔を歪める男。 「も、もうダメでやんす」 町娘が諦めかけたその時だった。 「おいおい、そんな華奢な若ぇ娘に手ェ出してどうすんだいお前さんよ。」 遠くの方から男の声がする。 「誰だぁ?てめぇは」 挑発するかのように問う大男。 ザッ、ザッ、ザッ、ザッと草履を履いた足が音を立てて近づく。男は答える。 「俺か?俺ぇあ佐之助だ。って言ってもしらねぇか、ダッハッハッハッハ!」 右手には食べかけの握り飯、左手には刀を左肩に立て掛けるように持っている男が?に米粒を付けただらしのない顔で陽気に笑う。捕らえられた町娘はその男のおかしな風貌に目を丸くした。 「てめぇなんか知らねぇよ!馬鹿にしてんのか!」 捕らえていた町娘を突き飛ばし怒りにまかせて大男は腰の刀を引き抜いた。 「あ~あぁ大丈夫か娘さんよ、あんな勢いで跳ね飛ばされたら痛ぇわな。」 刀を構える大男に背をむけ娘にむかって握り飯を食みながら言う佐之助。 「そんな事よりあの男刀構えてるでやんす。」 大男を指差し焦りながら言う町娘。 「んあ?あ、本当だ物騒だなーお前、しまえしまえそんなもん」 危機感も覚えず大男に言い放つ佐之助。 「お前ぇ、刀を持ってるのに戦おうともしねぇのか!髷があるということは武士だろ!」 佐之助の予想外の言葉に理解ができぬと騒ぎ立てるように言う大男。 「髷ぇ?こりゃ後ろ髪結ってるだけだ。それに俺は侍だ。武士なんて堅物な言い方すんじゃねぇや。」 と言うも刀を抜こうともせず左肩に立て掛けたままの佐之助。 「侍でも武士でもどっちだっていい!さっさと刀を抜けてめぇ!」 怒り狂う大男。それに対し佐之助は 「刀なんか抜かねぇよ。俺の刃は折れてんだ。魂とともにずっと前からな。ダッハッハッハッハ!」 平気な顔をして笑いながら言う佐之助。 「お前ぇそれでも侍かよ!」 大声で問う大男。 「知ってるか?男ってなぁよ、うめぇ飯といい女がいりゃ生きてけんだぜ?」 【侍魂という名の刃を持たぬその男はふらっと現れた】
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