まもるべき純情

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「あ、こら、動くなっていったのに」  真下でもぞもぞ動く彼に向かって、千月茜音(ちづきあかね)は小声で叱責した。 「ちょっと体勢変えただけじゃねーか」  その彼――クラスメイトの前田は、生意気にも強気に反論してきた。前田のくせに――前田のくせに生意気な。 「だから、それがダメだっていってんの。もし――ちょっとでもあたしの身体に触れたら、ぶっとばすから」  冷たく見下ろしながら、どすを効かせた声でいってやると、前田は間もなく静かになった。やいやいいわず、最初からそうしていればいいのだ。 「……こえーよ」  とはいえ前田を嗜めて満足している場合ではないのだった。一刻も早くこの状況を打破しなければならない。  でなければ待つのは、死――は冗談でも、茜音の今後の高校生活を左右しうる事態に発展する可能性は多分にある。何とか隠密に、危機を脱する必要があった。  そのためにまず、この状況を誰かに知らせなければならない。けれど、この状況を見られてはならない。ならばどうするべきか――。
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