1・ふたつの月

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「あの……」 「なるほどね。それ貸して。俺が修理しますよ」 「えっ、いえ、そんなことは自分でしますので」 有難い申し出だけれど、社員の方にそんなことを させるわけにはいかない。 どこの部署かは知らないけれど、こんなに 夜遅くまで残業をしているのだもの。 きっと忙しい人に違いないのだから。 「でも、これ相当重いでしょ?おばさん一人で 修理できます?」 ちょっとからかうような口調で話す男性は、 立てた親指でワゴンを指す。 彼の言うように、このワゴンを持ち上げて キャスターを取り付けるのは、なかなか 大変な仕事のはず。 だからといって、素直に甘えても良いものか。 「いいから俺に任せて。そうだな、これが代用に できるかな?ほら、おばさんは向こう側で体重を かけて、前輪が浮くようにして」 躊躇っているうちに、私の手からキャスターを 取り上げた彼は、道具の中からドライバーの 代わりになりそうな物を選ぶと、テキパキと 指示を出し始めた。 「え、あの、こんな感じですか?」 それがあまりに自然で、反射的に 従ってしまった。
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