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「あの……」
「なるほどね。それ貸して。俺が修理しますよ」
「えっ、いえ、そんなことは自分でしますので」
有難い申し出だけれど、社員の方にそんなことを
させるわけにはいかない。
どこの部署かは知らないけれど、こんなに
夜遅くまで残業をしているのだもの。
きっと忙しい人に違いないのだから。
「でも、これ相当重いでしょ?おばさん一人で
修理できます?」
ちょっとからかうような口調で話す男性は、
立てた親指でワゴンを指す。
彼の言うように、このワゴンを持ち上げて
キャスターを取り付けるのは、なかなか
大変な仕事のはず。
だからといって、素直に甘えても良いものか。
「いいから俺に任せて。そうだな、これが代用に
できるかな?ほら、おばさんは向こう側で体重を
かけて、前輪が浮くようにして」
躊躇っているうちに、私の手からキャスターを
取り上げた彼は、道具の中からドライバーの
代わりになりそうな物を選ぶと、テキパキと
指示を出し始めた。
「え、あの、こんな感じですか?」
それがあまりに自然で、反射的に
従ってしまった。
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