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四季の隣人
『ついでに夏も持っていけ』
朝七時四十二分発の電車の、四号車のいちばん端の優先席。
そこはいつだって一人分だけ空いている。
どれだけ混んでもそこに誰かが収まることはない――まあ、田舎なので混むなんてことは殆どどころか絶対にないのだけれど。
優先席というのは遠慮して座らない人も多くて、だから空いていても誰も何も思わないのはそのせいもあるだろう。
それで私はいつも、空いている席の隣、もうひとつの優先席に座る。
○
『フォール・イン・ポンド』
池のほとりに雪うさぎがいた。
生き物ではない、雪で作られたうさぎの方だ。確かに山には里より早く雪が降るが、それでもまだ秋の始まりである。山のてっぺんにしか雪なんてないのに、どうして里に近いあの池に雪うさぎがいたのだろう。
祖母にそう言うと、きっと神様が置いていったのだと話してくれた。自分のことを知っていたから置いていってくれたのか、ただ遊んでいただけなのか。それはわからないが、あの山には確かに神様がいる。きっと無邪気な神様だ。
○
『冬休み症候群』
冬休みの存在を、ああ懐かしいなぁ、なんて風に思い出して苦い顔になる。
学生の頃は冬休みがあった。夏休みもあった。今でも似たようなものはあるけれどそれは大幅に短縮されて、いつのまにやら盆休みだの正月休みだのに名前を変えた。
俺も昔は早く大人になりたいなんて思っていた気がするが、とんでもない。金が増える代わりに責任を負わされて、ついでに何気ない自由とか幸福とかをごっそり奪われる。サービス業なんかは正月休みもないんだからいよいよ末期だ。ああ、冬休みが恋しい。
たぶん、そんなことを考えていたから、視界の隅を走り去った姿に意識が引っ張られたのだ。
○
『彼を隔てて春が来る』
彼があんまりにも食べたそうな顔をしていたから、だからわたしは、食べてもいいですよ、と言ったのです。
そうしたら、ついさっきまで飢えて仕方ないと語っていた目が、お化けでも見たかのような表情になってわたしの方を向きました。
まったく失礼だこと。
表の華やかさとは裏腹にちらちらと思い出したような頻度で落ちていく花びらの中、生徒達の喧騒も少し遠く、日もさして当たらないこの場所で、わたしは初対面の彼に対して大人気なくも少々憤慨してしまったのです。
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