第1章 ルーイという男

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恐らく世の中に椅子を作れる職人は一日に寄せる波の数ほどいるだろう。 しかし世の中に椅子を壊す職人はルーイただ一人に違いない。 そこは山間にあるこれといって特徴のない小さな町で、人々は平和に暮らしていた。町外れには大きな木々と森が広がっていて、その側にある小屋で椅子壊し職人のルーイは暮らしていた。 彼は代々、椅子壊し職人の家系でルーイのお父さんもルーイのお祖父さんもルーイのひい祖父さんも…いやひい祖父さんは違ったかもしれない、とにかく長い間椅子壊し職人を営んできたのだ。 この地方には古くなった椅子や使えなくなった椅子は今まで役に立ってくれた感謝を込めて椅子壊し職人に頼んで元の木の苗に戻してもらうという風習が残っていた。普通、椅子を作るときは木を切ってきて削り、部品を組み合わせて椅子を作る、でも椅子壊し職人はこれとは全く逆の手順で椅子を木に戻してしまうのだ。ルーイになぜそんな不思議な事が出来るのか聞いてみても多分 「出来るのだから仕方あンめえ。オイラにしてみればなぜそんなことをわざわざ聞くのかわからねエな。」と答えるだろう。 とにかく椅子壊し職人のルーイにとって椅子を木に戻す事はそれぐらい自然な事なのだ。
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