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「ここ2年くらい付き合ってる人がいるって。何? お兄さん里緒のこと狙ってるの?」
「あの子、彼氏が出来てから飲み会来ないんだよね。相当好きなんだね、今の彼氏のこと」
彼女……里緒の務める会社周辺で以前写真で見せてもらった女子達に片っ端から『里緒のオトコについて』聞いて回った結果、全て僕のことを差しているように思えた。
取り越し苦労だったのか。
胸を撫で下ろすのと同時に、疑ってしまった罪悪感に苛まれた。
帰ろう。
そして、今日のことを素直に謝ろう。
そう思い、ビルへ背を向けようとしたその時、僕は見てしまった。
「……里……っ」
彼女の名前を呼ぼうとした喉は、途端に張り付いてしまった。
1度止まってしまったのではないかと思った心臓が再び動き出し、早鐘を打つ。
額には暑くもないのに、汗が滲み出てきた。
里緒は、僕から15メートル程離れた場所を男と談笑しながら歩いていた。
僕なんか到底適わない様なモテそうな男と2人で。
僕は何故か咄嗟に物陰に身を隠してしまっていた。
2人は、道路へ停めてあった青と白のやけに清涼感ある車へ乗り込み、陽の傾きかけたオレンジ色の風景の中へ走り去っていった。
気づけば、辺りは真っ暗だった。
頭の中は、さっき見た2人の姿を壊れたDVDディスクのように同じ場面ばかり再生させる。
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