再会は繁華街の裏路地

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寒さが身にしみるほど冷え込んだ夜。 一人の男が身の重さを引きずるようにズルズルと夜の繁華街の裏路地を歩く。 男は力尽き座りこんだ。 店の裏口なのだろう簡易的におかれたゴミ箱、店で使われたであろう資材の入っていたであろう箱。 吐く息は白い。空は暗いし、風は身にしみる。雪が降るだろう。 「…クッソ、こっちはナイフなのに室内で乱射しやがって、トリガーハッピー野郎め」 男は暗がりの仕事人だった。仕事でぶつかった相手に手傷を負わされていた状態だった。 出血と寒さで意識が霞む。 「百鬼(なきり)早く回収に来い…」 男は飼い主の名を呼ぶと意識を手放した。 蝉が命の限り鳴く暑い夏。幼いあの日。誕生日でついてない日だった。道をはさんで立つ家の一階はケーキ屋でそのウチには同い年の男の子がいた。その日幼馴染みは家に俺を招待した。 二階の居住スペースのキッチンで男の子はくるくる動いた。 男の子は自分で作れる簡単なティラミスと水だししたマロウのハーブティーを出した。 男の子は少し舌っ足らずにうんちくをたれながら給仕した。 「ティラミスはイタリアうまれでイタリア語で"私を勇気づけて"っていうんだって、元気になりますように」 「マロウのハーブティーはフランスでは夜明けのハーブティーっていうんだって」 水だしされた清清しいほどの青いハーブティーにガムシロップとレモン汁をたらしてマドラーでかき混ぜる。水滴のついたグラスの中でカラカラと氷が鳴って気づくとハーブティーは綺麗なピンクになっていた。 「モナコ王妃グレース・ケリーが生涯愛したマロウブルー。もったいなかった?」 幼馴染みはいたずらが成功したみたいに笑った。 気がつくと暖かかった。急に意識が覚醒する。周囲を確認すると食い物屋の建物内のようだった。かけられた毛布、ナイフを確認する。あった。誰だこんな見るからに危なそうな人間を拾う馬鹿は。 天井の照明をバックに男が顔をのぞかせた。 「お、気づいた気づいた。お前ウチの店の裏口でなにやってたんだ?」 息が止まるかと思った、胸がひきつるみたいに痛んだ。遠い昔に離れ離れになった幼馴染みの顔だったからだ。成長にともなって男らしい顔になったが共に遊んだ日々、ある時幼馴染みは顔に傷を負った目と額の間あたり大きくはないが出血がひどくて結局痕になった。 「冷えてたから暖めたけど」
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