第1章

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 プロローグ  俺は、誰を殺せばいい? スタイライツ号のマストにもたれて考える。穏やかな海の上、船はゆっくりと揺れていた。 この船の中に、証拠を握っている奴がいるはずだ。だが、それは、誰なんだ?  思い起こせば2週間前の夜。あれがケチのつき始めだった。 ―2週間前― 俺は死体を車のトランクから出して海に放り投げた。さっさと撤収するか。さっきから嫌な感じがする。 パシッ。 かすかな音が聞こえた。小枝を踏む音か? 誰かいる。俺は身をかがめ辺りを窺った。木の陰に、人の気配がする。懐に手を入れゆっくりと近づき、安全装置を解除した。 その時、突然木の陰から女が飛び出し、林の中を逃げて行った。見られた。殺るしかない。俺は逃げる背中に向けて引き金を絞った。弾は右に反れ木の幹に当たった。追いかけながら続けて二発撃つ。当たらない。改造モデルガンじゃこんなものか。しかしあの女、妙な走り方をしている。左手一本で木立を掻き分けて、右手をまったく使わない。何か持っているのか?  ついに、女を断崖に追いつめた。女はゆっくりと振り向いた。幼い顔立ち。高校生くらいか・・・。 「た、たすけて・・・」 この距離なら、外さんな。                  「な、なにも見ていな・・・」 「あーそーさ、じきに何も見えなくなるさ」  俺は、女に狙いを定め、引き金を引いた。 「きゃっ・・・」  女は、バランスを崩し、足を踏み外して崖下へ落ちた。  遠くで、パシャーンと水音が聞こえた。 「しまった」 俺は崖っぷちに駆け寄った。当たった手ごたえは無かったが、どのみち、この高さじゃ助からんな。遥か眼下で、荒波が岸壁に打ち付けていた。 引き上げるか・・・。右足を引くとかかとに何か当たった。見ると、携帯が落ちていた。拾い上げて中を確認する。 俺はデータフォルダを見て愕然とした。写真を、撮られていた! さっきから気になってたのは、シャッター音か・・・。しかも、メールに添付して、送信されている!! 送信先は、『クリス』 五枚、撮られている。暗くて、はっきり顔の分かるのは無いが、無視出来ん。俺は送信記録をつぶさに調べた。
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