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「は、いや、猫じゃないって、」
「うん。あれは猫じゃない。これよく見てみ?」
よく見てみろと差し出されたのは私が助けたはずのものだった。
よく見てみる。
よく見てみると足が6本あるし、目が3つあるし、尻尾長すぎるし、背中に羽もどきが生えているし
「ぬあー」
揚句「にゃー」とすら鳴かない。
「別もんじゃねえかっ!」
「ぐふぅっ!」
衝動もままに神の持っていた木の杖をひったくり神の側頭部にフルスイングした私は悪くない。悪くないはずだ。
私が死んだのはこの神の猫もどきがトラックの前に飛び出したせい、つまりは神のせいだ。死の代償が鈍器でフルスイングなら私は全然許される。
私はあくまでも猫を守って死んだから諦めもついたのだ。それなのにふたを開ければ私が助けたのは猫ではなく、おまけに私の知っている動物でもない異形のクリーチャーだ。死んでも死にきれん。
「な、なんという冒涜……おぬしには神を敬う、いや老人を敬うという心がないのか……、」
「言ってろ。貴様は言い換えれば殺人犯。私被害者。OK?条件次第で示談に応じてやらんこともない……。」
「応じなければ?」
「この木の杖で神殺しを決行する!」
「そんな殺生な!」
「老人に、神に私刑を下すことも厭わん所存。」
そして侃々諤々の話し合いの末、私は生前好きだった乙女ゲームの世界に転生させてもらえることとなった。
何やらぶつくさ言っていたが、どうも異世界へ転生させるのは今日2回目らしい。私と同じトラックに撥ねられた男子高校生をギャルゲの世界に送ってやったらしい。そっちの男子高校生は謙虚でいい子だったとか、知らん。
何やら杖を振って私を転生させるらしい。正直不安しかない。今更ながら神とはいえ自称ドジっ子に私のこれからを左右されるのとか、不安過ぎる。
「そおれ、いくぞい、ぶえっくしょい!」
「ドジっ子おおおおっ!?」
杖を振ると同時にくしゃみしやがったこの神!
けれどもどうも成功したらしく、私の意識は遠のいていった。
気が付いたのは5歳の時。どうも赤子の時代はすっ飛ばしたらしい。気が利くのか、単なるミスなのか。
鏡を見れば幼児が映る。かつての私と同じ姿だ。ヒロインになりたいとは思っていなかったため、別にこの見た目で構わない。私はあの世界を傍観者として眺めたいのだ。
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