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種々の野菜が世界の覇権をかけて争いを繰り広げた戦乱の時代から、はや幾年月が過ぎた。
ときの実力者マクワウリにより天下統一がなされたのち、新たに建国された『野菜千年王国』。争いをやめ、あらゆる野菜の共存をかかげたこの国で、彼らは平和な暮らしを営んでいた。
しかし――その平和は一夜にしてもろくも崩れ去ったのである。
「きゃああああっ!」
草木も野菜も眠る丑三つ時。当代国王トーガンの居城に絹を裂くような悲鳴がこだました。
「何ごとじゃ!」
悲鳴はトーガン大王の愛娘、キャーロット姫のものに違いない。トーガン大王が手近な兵を集めて姫の寝室に駆けつけると、そこには。
「クックック。一足遅かったようですな、トーガン大王」
姫の姿はすでになく、代わりに覆面姿の何者かがひとり、勝ち誇った笑いをあげている。開け放たれた窓からは、時おり強い風が吹き込んだ。
独特の香りが鼻をつく。トーガン大王ははっとして、瞬刻その正体を覚った。声にも確かに聞き覚えがある。
「お前は……大臣! ピーマン大臣だなッ!」
「いかにも、我はピーマン。我が崇高な計画のため、キャーロット姫はいただいてゆく」
自分の右腕として信頼を置いていた大臣が、まさか――大王はにわかに信ずることができなかったが、狼藉者をみすみす見逃すわけにもゆかぬ。
「ええい、兵士たちよ! この悪しきピーマンを捕らえるのだ!」
大王の号令とともに、兵士たちが一斉に身を翻し――しかし麻縄でその身を拘束されたのは、ほかならぬ大王自身であった。
「な、何を!?」
「残念だったな。城兵の一部はすでに我の手駒よ。そのパプリカどものようにな」
よくよく見れば、大王に付き添ってきた兵士は皆が皆、色とりどりのパプリカであった。とくにピーマンに近しい者たちである。
「おのれ、謀ったなピーマン大臣!」
「気付くのが遅かったようですな、トーガン大王」
身動きひとつとれぬトーガン大王を尻目に、ピーマンは開いたままの窓から身を乗り出し、そして、跳んだ。
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