第二章 未来のゆくえ

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 ピーマンへの強すぎるほどの忠誠心は、忌まわしき歴史――食糧確保のためだけに用意された国と無知な民、自分にも否応なく降りかかるはずの運命――に対する、恐怖と悲哀の裏返しなのかもしれなかった。そして、漠然とした不安におびえる弱い自分を隠すため、怒りで誤魔化している――。  直接剣を交えたキャベツには理解できた。彼女もまた苦しんでいるのだ。ジャガイモと同じように。 「運命に抗おうと尽力するピーマン様と、それを邪魔する貴様等……どっちが悪だか、わかりゃしないね」 「減らず口を」  ジャガイモの口調は、鋭く尖ったものからどことなく冷めた、呆れを含んだものへと変わった。これ以上まともにとり合っても無駄と、態度で示している。 「歴史も運命も、オレが変える。オレがピーマンを討伐し姫と結ばれ、次の国王となった暁には……」 「本性を表わしたね」 「何だと」  アカリの態度が変わった。明らかな侮蔑が含まれ、今度は彼女の方が呆れている。まるで合わせ鏡のような、二人のイモ。 「権力を笠に着て好き勝手、魔王と何が違う?」 「……権力と暴力を一緒にするな」 「立場の弱い者にとっては同じことさ。どのみち、アンタに世界は救えない」  ジャガイモの歯切れが悪くなったところに、さらにアカリが畳み掛ける。アカリの表情は暗く、勇者に対する期待は微塵もない。  ここまで黙って聞いていたキャベツも、このアカリの言葉は聞き捨てならなかった。 「ジャガイモは勇者として選ばれたんだ、世界創造の礎たる天地の剣も持っている。ジャガイモがきっと世界を正しい方向へ――」 「あの剣はアタシらには使えない。一族のあいだじゃ常識さ。そこのイモも分かってるはずだけどね」  ジャガイモには天地の剣が使えない。彼こそ勇者と信じていたキャベツにとっては寝耳に水の話だ。しかしジャガイモにも反駁する素振りはなく、俯きがちに目を逸らすばかり。  アカリを責めたてるつもりでいたジャガイモが、逆に打ち負かされてしまったのだ。つまりは彼女の言葉は全て真実であり、ジャガイモでさえも変え難く、認めざるを得ない現実ということになる。  しかしアカリを絶望の中に置き去りにしたくはなかった。キャベツは望みを繋ごうと、懸命に思索する。何か、運命に抗う希望となりそうなもの。何か――。
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