第三章 夢のあとさき

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 二人は遅い朝食を済ませると、地図にない町を後にした。長く続いた線路の果て、ピーマンの居城まではもうどれほどもかからない。順調にいけば、昼を過ぎる頃には到着の運びだ。 「ジャガイモ、君はやはり、運命を変えたいと願うのか」 「オレは――野菜として、植物としての生を全うしたい」 「いずれ枯れるか腐るか、どちらかでも?」 「それが自然というものだろう。キャベツは違うのか?」 「……誰かの糧になるのは、それほど不幸なことだろうか」 「――フッ、あくまで他者のためにか。お前らしいな、どこまでも」  歩みを進めるにつれ、魔王の城の全貌が明らかになっていく。まだいくばくかの距離を残していながらも眼前を埋めてしまわんばかりの巨大な魔城は、主以外の全てを拒絶するかのような、絶大な威圧感を放っていた。 「何か――来る!」  暗雲立ち込める中、ジャガイモが天を仰いだ。キャベツも顔を上げる。黒い雲の塊が見る間に引き裂かれ、そこから現れたのは―― 「ネ、ネギ!? でかいぞ!」 「ネギの化物だ、王城を襲い、姫をさらったという――!!」  まずキャベツが声を上げ、ジャガイモが続いた。王城急襲の折に目撃された、宙を舞う長大かつ長大なネギの化物。魔王を目の前にした今、その化物がいよいよ二人の前に姿を現したのである。 「フッフッフ。お前たちの旅もここまでだ、勇者ジャガイモ、そしてキャベツ」 「あれはナス――いや、だが色が……!」  ネギの化物の背に、それを操るナスの存在を認めるキャベツ。不敵な笑みを浮かべ二人を見下ろすその男は、ナスでありながら豆の莢のような緑色をしていた。 「我が名はアオナス。魔王に楯突く不届き者め、この場所で灰燼と化してくれる。ゆけいっ!!」  暗い色のローブをひるがえし、あからさまに二人を蔑視するアオナス。彼の号令を受けたネギの化物がその身を大きくひねらせたかと思うと、風の速さで二人に牙をむいた。キャベツもジャガイモも、散り散りになりながらどうにかその攻撃をかわす。だが牙の後には鋭い爪が迫り、その隙のない攻撃の前に二人はなすすべなく逃げ回るしかなかった。 「ハーッハッハッハ! 手も足も出まい!!これぞ我が暗黒品種改良の生み出せし魔物、ナーガ・ネギの力よ!!」
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