第三章 夢のあとさき

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 ネギにもかかわらず強靭な顎と牙、鋭い爪を備える様はまさに龍。さらに尻尾の一撃まで加わり、なおも防戦一方の二人。活路ひらけぬ戦いの最中、ジャガイモが突然自分の剣を打ち棄てた。 「キャベツよ、お前にこれを託す」  ジャガイモはナーガ・ネギの攻撃の合間を縫ってキャベツに駆け寄り、背にした『天地の剣』をキャベツに手渡した。 「ジャガイモ?」  目を見ればわかる。ジャガイモはこの戦いまで投げ出したわけではない。しかし恐るべき魔物ナーガ・ネギに、武器を棄ててどう対抗しようというのか。  キシャアアアァァ!!  耳障りな咆哮が大気を震わせる。ナーガ・ネギは攻撃の手を緩めることなく二人に追いすがり、その牙が再三、二人を襲った。 「くっ!」  キャベツもジャガイモも、迫るネギのあぎとを横っ飛びにかわす。が、ジャガイモの動きはほんの一瞬の間、キャベツに遅れた。  ばごん。 キャベツの隣で、砕けるような鈍い音がした。キャベツは反射的に音のした方へ振り返り、絶句した。  ジャガイモの体が大きく欠けていたのだ。体の左半分、ほとんど二分の一近い部分が、隕石でも衝突したかのように抉られ、消失していた。ナーガ・ネギの牙が、わずかに動き出しの遅れたジャガイモをとらえ、その半身を食ったのである。 「ぐああああ……ッ!!」  地に伏し、苦悶の声を上げるジャガイモ。 「ジャガイモ!!」  駆け寄るキャベツ。しかしジャガイモは差しのべられた手を残った半身で振り払うと、ナーガ・ネギを指差して叫んだ。 「キャベツ!! チャンスは今しかない!」  見ると、ナーガ・ネギ長い体を幾度となく捩っては戻しして、空中でぐねぐねと身悶えしていた。食われたジャガイモより苦しげに蠢くその姿は先ほどまでの猛攻からは想像もつかないものだ。 「き、貴様ァ!! 一体何をした!!」  アオナスもナーガ・ネギが暴れる理由が分からず、ただ振り落とされまいとしてコントロールの失われたネギの背にしがみつくばかり。 「ククッ、何も。今のオレの身は毒でしかない。そこのデカブツが、知りもせず勝手に毒を食っただけのことよ……!」 「ど、毒だと!? どこにそんなものを!!」 「オレたちジャガイモは、日に当たればその身に毒を蓄える……。同じ野菜に効くかは賭けだったが、どうやら『異物』程度には認識してくれたようだ……くうっ……!!」
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