『SINGULAR POINT』

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 玄関の開く音がすると、慶松が帰ってきた。 「氷花、テレビと話さない」 「一人暮らしも長かったからさ」  誰かと会話するよりも、家ではテレビと会話していた。この相槌のような進展のある、ニュースはいい。 「ほら、野菜餃子、ニンニク抜きね」  月曜日から、ニンニクという訳にもいかない。  俺が熱心に事件を見ていると、慶松が先に風呂を済ませてきた。 「何か、関係があるよね」 「話すと長くなるけど、取引先の息子が関係していた」  慶松に事件に関わらないようにと説教される。でも、俺も好きで事件に関わるわけではない。 「氷花、頼られると弱いね」  そうでもない。でも、普段があまり必要とされていないので、張り切ってしまう節はある。 「そうか、あの美容院か。何度か餃子を出前したっけ」  ラーメン屋松吉は、出前もしていたのか。 「今日も石田さんが来ていたよ。それで、裏メニューを作った」  毎日通ってくれる客のために、裏メニューで賄いランチというのを作ったらしい。単に、その日の賄い料理の定食であった。今日は、鶏肉のごぼう巻に、チャーハンとスープになっていた。  鶏肉は塩ラーメンに使用していて、ゴボウだけ購入している。  石田は元気で、今日も夜中まで働いているらしい。  遠見が石田から聞いた別荘を割り出し、持ち主を調べていた。すると、有名な政治家であった。来ている弥勒は、その政治家の孫のようだった。 「まだ調査中ね」  今日は、鈴木が麺を打ってゆくと言っていた。普段はバイトの一人が、日中に麺を作り続けているのだが、休みとなってしまい明日の麺が無くなった。  麺は他の店にも卸している。 「バイトの西田が、ファミレスの店員を毎日口説いて、やっとデートになったよ」  隣がファミレスなので、定員も毎日見ている。 「可愛い子か?」 「まあ、可愛いけど」  西田には悪いが、ぽっちゃり系の普通の子らしい。  鈴木の彼女は、同じ大学に通っていて、時々忙しいと松吉のシフトにも入ってくれた。美人で気が利き、頭もいい。つい、比較してしまう。 「比較はよくないよね」 「そうだね」  洗い物を済ますと、互いに部屋に戻る。今日は、慶松の組み立てを手伝う気がしない。スケジュールを見ても、余裕があった。  それに、慶松も俺を休ませたいのか、呼びもしなかった。
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