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そういえば、何か忘れ物をしてるようなと、もう一度倉庫を振り返ると、入口付近で小さな白い塊を見つけハッとして呼びかけた。
「甕おいで!」
耳をピクッとこちらに向けピョコピョコ駆けてきたが、凱達もいるし近くには朧もいる。
純真無垢な甕にどのように映ったのかは不明だが、少し手前でジッとお座りしていた。
「怖かったね……抱っこして歩いていい?」
私も『般若』に見えてたら恐怖を煽るだけなので、念の為お伺いを立てると、タタッと腕に飛び込んでくれたので思わず顔が緩んだ。
「嬉しそうじゃの」
朧が珍しそうに甕を見ていると、クルンとした紺色の瞳で腕の隙間から顔を覗かせる仕草も笑いが出そうになるくらい可愛い。
「だって目がまん丸でぬいぐるみみたいでしょ?色も綺麗で……」
言いかけた自分に何か違和感を感じて足を止めた。
甕がここにいるって事は、パートナーの紫紺が必死で探してるかもしれない。
とりあえず蘭さんにメールしてみると『みんなで食べてる』と返事がきた。
紫紺が気づくか分からないが、甕も一緒にワンパスタに向かいますとメールを送っておいた。
「……他に忘れ物ないかな」
「歩きながら考えたらいいですよ」
アハハと笑いながら歩き始めたが、さっきまで蜂人間を無残に始末していたとは思えない空気感が逆に不気味だった。
イナリは下からチラ見していたが、今だけは少し我慢して、幼い子のお兄ちゃん的存在で見守って欲しい……犬種は違うけど。
夜のワンパスタはお酒も飲めるようで、昼間の雰囲気とガラッと変わり『イタリアン食べに来ました』な大人なムードがある。
恐らくテーブルに置かれたキャンドルが、トンネルを掘ったような壁面を謎めいたように見せ、天井から吊るされた船の道具もいい演出をしている。
席に案内されメニューを渡されたが、私は決まってるので特に見もせず、凱と朧はサイドメニューもゆっくり見てからウエイターを呼んだ。
とりあえず単品を頼むと、他にサラダやチーズの料理にお酒も注文していて、こういう場所に慣れてる感じで格好良く見える。
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