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長く続いた改装が終わって真新しい空間の広がる豊橋駅は、人でごった返していた。
これが朝のラッシュなの!
麻沙美はぶつからないよう周囲に合わせながら歩くのに一生懸命で、駅を出て単線のローカル電車に乗り換えるまでは何も考えないでいられた。
ローカル電車は終点にある私立大学へ向かう学生達で混んでいて、麻沙美はつり革につかまって立った。
車窓に、自分の姿が映っている。
かろうじて櫛を入れただけの、一つに束ねた髪。
少しまるみを帯びてきた体型も、きっちりと塗るだけの化粧も、ごく普通の主婦にしか見えない。
実際、小学生の子供が二人いてパート勤務している主婦なんだけども。
だけど今日は・・・。
こんな日に、こんな時に、まるっきりただの買い物へ行く途中みたいな主婦っぷりでいいのだろうか。
もっとこう髪を振り乱して、涙で化粧が崩れましたって感じにならないのかしら。
そんなことを考えていても、車窓に映る自分は特に表情を変えるでもなく、すまして立っている。
どうして普通にしていられるの、私。
夫が死んだ、って言われたのに。
ご主人が病院で奥様をお待ちしています、なんて言われてしまったのに。
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