ご挨拶

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ご挨拶

 あっしの名前は「神具螺」と申します。名字はございやせん。ただ、「かぐら」でございやす。しがねぇ修繕屋をやらせていただいておりやす。  何の修繕か、でございやすか?  大は箪笥みてぇな家財道具から小は時計みてぇな懐中物まで、古道具の繕い事なら、ちょっとした腕前だと自負しておりやす。  そうそう、名前といえば、もう一つ。猫がたいそう長生きするってぇと尻尾が割れて猫又なんてぇ物の怪に化けるなんて申しますが、物具もそんくらい年期が入ると霊気や神気が宿って人肌を恋しがる、なんて奇譚を耳にしたりしなかったり。そんな訳ありの古道具を修繕する事もございやす、ってなもんで、あっしも人様から「物霊繕い(もんたまつくろい)」なんて渾名で呼ばれる事もございやす、へぇ。  五郎堂さんってぇ老舗の古道具屋に住み込みでお世話になって幾年月。昔は結構繁盛しやしたが、近頃みてぇな使い捨てのご時世じゃあ閑古鳥が鳴いて久しいでやんす。  冷や飯食いも肩身が狭いってもんで、近頃は、修繕道具一式を携えて出稼ぎに出る事も多くなりやした。  出稼ぎ、っても何の伝手があるわけでもなく、適当な場所で幟を立てるくらいしかできやしませんがね。  どこぞで、身一つ道具箱一つのしょっぺぇ露店を開いている修繕屋を見かけたら、お声を掛けてくだせーやし。  もちろん、お代は勉強させていただきやす。
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