Hit me !

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Hit me !

完璧に出来上がった、大量の酔っ払いが店内から吐き出されてくる。 その波に逆らって、僕らを威勢よく出迎えるカウンター裏の店員の熱さに圧倒されながら、奥の階段へと進んでいく。 炭火に炙られてこんがりとその身を焦がした鶏肉に思わず見とれて、うっかり上を見上げると成沢さんの揺れるスカートの裾が目に飛び込んできて、僕は慌ててうつむいた。 「誰もいないね」 二階の座敷は祭りのあと。さっきの団体客だろう。 「すいません、今片付けて広いところ空けますんで」 ハチマキを巻いた若い店員が申し訳なさそうにそう言って、窓際の一番小さな二人掛けの席に案内した。 「あ、良いですよ、ここで」 僕がそう言うとすかさず彼女も頷いた。 細く開いたすりガラスの窓から見慣れた電柱が僕の目線の高さに見える。 それだけでいつもの帰り道がとても新鮮に感じられた。     
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