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嘘みたいだ。
僕の誕生日に、成沢さんと二人きりで飲みに来られるなんて。
「まずはお飲み物、うかがいますけど……」
肉まんをくしゃっと潰したような愛嬌のある笑顔に、ハチマキが良く似合っている。
快活な彼の応対が、僕にはとてもまぶしく感じる。
「えっと……」
女の子は甘い物のほうが良いのだろうか。
いや、そもそもあまり飲まないのに僕に合わせてくれたのかもしれないし。
そんな僕の心配をよそに、
「生、二つ」
メニューも見ずに、成沢さんは店員に軽やかにそう言った。
それから店員に今夜のおすすめを聞いて、ひとつふたつと言葉を交わすうちに、彼の趣味が釣りで、今夜も仕事を終えてから寝ずに仲間と釣りに行くのだという情報まで行き着いていた。
手持無沙汰で落ち着かない僕は、彼らの話に割り居入ることも出来ずに、テーブルの上の調味料のラベルを揃えてみたりしながら、適当に相槌を打っている。
「でも、びっくり」
「何がですか」
「同い年ってこと。なんだか仲間を見つけたような気持ちになって、嬉しくならない」
目深にかぶったキャップのつばを引っ張って、そうですね、と言って頷いた。
僕は、彼女の言った、仲間、と言う響きをうまく呑み込めずにいるのに。
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