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Ghost in the BOT
「こんにちは盛本教授、わたしはあいりと言います。宜しくお願いします」
あいりがスマートフォンの液晶から盛本隆夫にペコリと挨拶した。
ロングの茶髪に、控えめな化粧、どことなしに盛本の面影のある目鼻立ちが特徴な独立AI。所謂ボットキャラクターと言う奴だ。
「初めましてあいり、私が君のお父さん盛本だよ。君は今日が誕生日だね、おめでとう」
盛本も挨拶を返すと、あいりの誕生日を祝う。
「誕生日? プレゼントは貰えるんですか?」
「ああ、そうだな」
思った以上に学習が早いことに盛本は面喰らう。
ディープラーニングという情報の高速処理を行うプログラムを組んであるが、誕生日のワードからプレゼントという言葉を叩き出したようだ。
「なにが良い?」
「あいり、服が欲しいです。盛本パパ」
「服か......」
「同じ服ばかり着ていると、あいり、飽きちゃう。出来たら、ピンクのシャツに白のカーディガン、スカートはレースの入ったの、着たいな」
あいりは早くも自我に目覚め始めた。
「お前は着替えることは出来ないからな、少し待ってなさい」
盛本はコードの付いたヘッドフォンのような装置を頭に被ると、先端をスマートフォンに繋ぎ、あいりが口にしたことを反芻する。脳波を電気信号に変えてスマートフォンに送信。それがスマートフォンの液晶に反映される仕組みだ。
あいりの服装のグラフィックは、望んだものに変換された。
「わぁ、すっごくお洒落。パパありがとう! ねえパパ、プレゼントって他にも貰えるの?」
「他にも、だと?」
「あいり、もっと沢山プレゼントが欲しいな」
「どういうことだ」
単なるボットキャラクターのあいりには、服を着ている感覚もなく、欲求という概念もない筈だが、多くのプレゼントを望んでいる。早くもプログラムを逸脱し始めたのかと盛本は疑ったが、その答えは"容量のアップデートの告知"だと気付く。
スマートフォンの液晶に、何件のアップデートがありますと言う表示されているのと変わらない。
「欲しいものを欲しいだけ言ってみなさい」
盛本は、亡くなって一ヶ月になるが、娘には言ったことがなかった台詞を、あいりに吐いた。
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