夢中毒

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 エス氏は借金をしてでも夢を楽しむようになっていた。  そのうち会社のお金に手を出して解雇され、家賃を払えなくなって家も追い出され、河川敷で生活するようになっていた。空き缶を売ったお金をかき集めては夢を見せてくれる店に赴き、成功者を疑似体験していた。 「お客様、前にも申し上げましたが、そろそろお止めになった方がいいかと」 「うるさい! 金払ってるんだからいいだろ!」エス氏は歯の抜けた前歯から空気を漏らしながら声を荒立てると、しんみりとした口調で続けた。 「それよりさ、夢の中の俺が、ここと同じ店を夢の中で発見したんだよ。そんなことってあるの?」 「たまに聞きますね。滅多にないですけど」 「え、そうなんだ・・・・・・しかも若いうちから小説家として成功を収めている夢の中の俺がさ、ネタ探しのためにわざと貧乏な生活を楽しんでいるんだよ」 「つまり夢の中でさらに夢を見ているということですか?」 「そう。なんだか現実と夢の区別がつかなくなってきているんだ」 「いいじゃないですか、どっちでも。今お客様が現実だと思ってるこの世界で死んだ時に、ハッとしながらベッドの上で目覚める可能性もあるということですよ。そう考えたら死ぬのが怖くなくなるじゃないですか。現実の世界も夢だと思ってしまえば、思い切った決断ができるというもんですよ」 「うん・・・・・・」エス氏は俯いて、自分の汚れた靴を見つめてから、空を見上げた。 「どうかされました?」 「ここに来るのは今日で最後にするわ」 「・・・・・・そうですか」 「なんか、君の声を聞いていると、不思議なくらい言葉がスッと頭の中に入ってくるんだよ。まるで天から降ってくるみたいに」
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