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「あの……こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど、その人、最初は友達の友達で、全然興味なかったの」
蚊の鳴くような声で結衣は話し始めた。
「一回ね、食事に行く機会があって。そこで話しているうちに、仲良くなって、その……ごめん、なさい……っ」
喉に詰まった涙声が部屋に溶けて消える。
結衣の涙が頬を滑り落ちた。あごまで流れたその雫は落下し、カーペットにぽつぽつと染みを作っていく。
「はっ。言い訳は聞きたくねぇんだよ」
「お願い、ともくん! もう彼と会わないって約束するから、私を愛して――」
「ふざけるな。都合のいいこと言ってんじゃねぇよ」
「と、ともくん!」
「別れよう。お前とはもうこれっきりだ」
「とも……く……っ!」
結衣の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。おそらく演技ではない。心の底から後悔し、懺悔しているのだろう。
まさか喧嘩別れするとは……予想外の展開だが、不意に訪れた機会に心が打ち震える。
結衣の願いを無視し、『ともくん』は部屋を出ていった。
そして、俺は監視カメラのスイッチを切った。
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