エピソード 紘都のジェラシー

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「…レディースか…」 スケッチブックを膝に抱え、両手にカタログを広げる俺。 リビングのテーブルの上には、今までCherry blossomが刊行してきたカタログがギッシリ積み上げられている。 メンズが無く、レディースとアクセで活動し、躍進して来た20年。 俺が背中を追う人の、歴史に囲まれてる気分だ。 子供の頃から、父さんの仕事に興味津々だったのは、きっと……5人兄妹の中じゃ、俺が一番だった。 当たり前のように被服科のある高校と、デザイナーになる力を付ける為の短大に進んだ。 メンズを希望したのは、Cherry blossomに新しいものを作りたかったという俺の意見。 紘に似合いそうな服を考え、作るのが好きなのは今も同じ。 レディースを選ばなかった……というより、選べなかった。 父さんの服を超えるものを、作り出せる力がなかったからだ。 自信も…… 数ヶ月前の、KOTOKOブランドとのコラボしたショーで、初めてレディースを作った。 モデルとなった母さんの衣裳。 出来栄えは、凄く良かった……と思う。 母さんも、凄く喜んでくれた。 いずれ……いつかCherry blossomを引き継ぐ俺は……まだまだ未熟だ。 母さんに作った衣裳以来……あれを超えるものを、手掛けられていない。 「ただいま~!…春?」 「おかえりっ!ここに居るよ!」 積み上げたカタログから、腕を伸ばしてる振る。 「…これはまた…凄い数のカタログだね?どうしたの?」 「うん?引っ張り出してきた」 「それは、見れば分かるよ…そうじゃなくて…」 紘都が俺の眉間に指を当てる。 「皺…凄いよ?何をそんなに難しい顔してるの?」 「…次のさ、Summerフェアからメンズとレディース平行すれって、父さんからお達し受けたの」 丁度今、Springフェア真っ只中で、四季の中で一番力が入る春は、メンズに集中出来たけど、次回からは両方こなさなければいけなくなった。 「それで、奮闘中ってところ?」 「奮闘中どころか、空まわってるだけだ」 何も……思い付かない。 膝に抱えたスケッチブックは、真っ白いまま……
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