ニッポンで生きる

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会社の一番近くにあるコンビニに、二か月前からグエン君という青年が働きだした。 日本語はたどたどしいが、明るく一生懸命で、何よりも屈託の無い笑顔がいい。 その笑顔見たさに、お弁当よりも、そのコンビニでランチを買うことが多くなった。 グエン君が担当するレジが混んでいたって、絶対に彼のレジに並ぶことにしている。 これが、職場で戦う私の唯一のオアシス。 いつものようにグエン君は、手際よくバーコードをスキャンしていく。 ただそれを黙って見ているだけだが、至福の時間だ。 「ゴメンナザイ」 グエン君は、そういいながら丁寧にお釣りを差し出した。 会計のときに手間取ったのだ。手間取ったといっても、たいしたことじゃない。 たいしたことじゃなくても、彼はゴメンナサイと言う。 彼の口癖だ。 グエン君が、異国の地“ニッポン”で生きていくために最も必要な言葉が、 「ゴメンナサイ」 なのだろうと思った。 きちんと謝るべきニッポン人が他にゴロゴロいるのに。 お釣りを財布に入れて、ビニール袋の中を見ると、カップみそ汁と一緒にプラスチックのスプーンが入っていた。 「あの、カップみそ汁は、スプーンじゃなくて、箸でお願いします」   カップスープはスプーン、カップみそ汁は箸というルールは、 ニッポン人だけなのかもしれない。 最近では “みそ汁”のことを“みそスープ”と言う人だっている。 外国人にしてみれば“スティックでスープ飲むのかよ!?”と疑問に持つ人だっているかもしれない。 しかもカップスープとカップみそ汁の外見はほとんど一緒で、外国人が一瞬で見分けるのは難しいかもしれない。 「ア!ゴメンナサイ」 濁りのない瞳をしたグエン君が、手際よくスプーンと箸を交換してくれた。 「わがまま言って、こちらこそごめんなさい。 それから、そんなに“ごめんなさい”って言わなくてもいいと思いますよ」 グエン君の「ゴメンナサイ」は本当に必要なときに遣ってほしいから。
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