画餅点心。

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 そこで、私は、村の女に化けて人間の言葉で答えた。  「和尚様、私はもうこの通りすっかり良くなりました。これも、和尚様のおかげです。本当にありがとう御座いました」  僧侶は、微笑んで、私に語りかけた。  「そうだな、立派に化けるものだ。この調子であれば、確かに元気になったのだろう。しかし、外は真っ暗だ、おまえに提灯を授けよう」  そういうと、まだ朝日が昇ったばかりの明るい空の下、提灯に火を付けて私に渡した。  「ありがとう御座います。これで、暗くても歩いていけます」  最敬礼して、外出しようとする私を、咎めるように和尚は提灯の火を吹き消してしまった。  「慌てるな。まだ、汝の寿命は尽きてはおらぬ」  「私には、腹を空かせて待っている子供が二匹います。どうか、止めないでください。落ち着いたら、必ず和尚のもとへ、恩返しに参ります」  和尚は、ちょっと待てと言って奥に行くと、三つの餅飯を私に持たせた。  「もう、人の畑を狙ってはならんぞ」  私は、再びお礼を告げて、和尚の住持する寺社を後にした。  ねぐらに戻ると、私の子供が一人しか居なかった。  「かあちゃん、弟が狩人に捕まえられてしまったよ。僕も捕まえられそうになって、必死に逃げたから、弟を助けてやれなかった……ごめんなさい」  私は、少なからぬ衝撃を受けて言った。  「坊は責任感じること無いさ、私すら、お前たちを救えないで、命からがら逃げ去ってしまったのだから。……結局、自らの命を守ることが出来るのは自分だけなんだよ、坊もしっかり肝に銘じておきなさいね」  私は、禅僧に貰った餅飯を二つ、坊に与えた。  「人の匂いがするかもしれないけど、大丈夫だから」  そう言って、残りの一つを私が食べた。  私は、子供にどのあたりで弟を見失ったか、詳しく聞いた。親としては、大事な子供が今どうしているのか、実際に調べて確認せねばならない。おそらく、人に捉えられてしまったのだろうが、万が一生き残っていたならば何として助けに行かねばならない。  どうやら、私の降りて行った畑の少し上手で、弟は捕まえられたようだと、残された匂いなどから推察された。その匂いを辿って、私は再び危険を冒した。子供は、山中深くに待たせてあるので、一人でも大丈夫だろう。それより、むしろ弟の消息が気に掛ったのだ。
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