私は病原体でありたい

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 おはよう、諸君。私は病原体だ。  ……失礼、嘘をついた。病原体『見習い』と言った方が正しい。まだまだ感染力も低く、影響力も薄く、存在にすら気付かれないちっぽけな存在だ。  しかし、私は夢を見る。  いつしか私の存在が大々的に謳われ、テレビを見れば私が流行したというニュースを連日騒がせ、新聞に私の名前がデカデカと載り、無邪気に駆けずり回る幼稚園児から腰の曲がった老人にまで私の存在を知られたい。そう、それが私、病原体見習いの夢だ。  だが道のりは非常に険しい。  まず有名な病原体になるためにはその影響力を強めねばならない。  私に感染した瞬間、その罹患者は涙を流し、その病気はできれば数年以上に渡って残り続け、さらには他の者に再度感染するとなお良い。  罹患者が私の影響力に気付くことなく、それでいて知人に移すことができればベストだ。また、季節関係なく私の名が轟くようならば理想的と言っても良い。場所を問わずというのも魅力的だ。  どこでもいつでも私がいる、そんな状況になれたらとても嬉しい。  だが、この要素を全て為すのはとかく難しい。  影響力を強めると言っても私の力はまだまだ微力、感染した者に涙を流させるどころか、鼻で吹き飛ばされるレベルの力でしかない。  残り続けることも、他者に再感染させることも難しいだろう。私の行動範囲は非常に狭い。ほら、わかるだろ? 私はここでしか力を発揮できないのだから。  いつでもどこでも私がいる、というのは少しだけ実現できているが、理想とは程遠い。私の力ではなく、状況の力の為せる業だった。はっきり言って私は弱者極まりない。  それでも、いや、だからこそ私は夢を見る。  私の存在を誰かに知られたい。私の事を知った人間が影響を受けてほしい。かつて私も感染したことがあるのと同じように、私も誰かを感染させたい。  だからこそ私は書くのだ。常に自分の望みを、理想を、憧れを書き、誰かにそれを読んでもらいたい、常にそう願っている。  私の書いた小説に影響を受けた人が一人でもいれば、私は病原体として誇らしく思う。  ……ああ、再度失礼した。自己紹介がまだだったな。ここまで自分語りをしてから自己紹介というのも格好つかないが、ここまで読んでくれたありがたい読者様にぜひ名乗らせてほしい。  私の名は『オヨビゴシ』。病原体希望のしがない小説家だ。
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