余命100

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 息をはき、イヤホンを外す。それを棚付きのテーブル台に置くと、胡座を解き、ベッドに身を委ねた。  さらにリクライニングシステムを使い、スイッチ一つでベッドの上部をゆっくり上げる。  途中、両腕を頭に敷き、脚を組む悠々さに僅かながら自尊心が揺れ動いた。 「昨日のこと、忘れたわけじゃないよ」  少女は蔑むように申告する。  怒っている。あれは怒っている時の彼女のトーンだ。  昨日、放心状態でこの部屋に異動してきて、初めて相部屋であることを知った。  そして、彼女のパンツの柄が縞々であることも。  意思消沈だった俺が異動となった部屋をノックも無しに開けて、その先で着替え中の少女を目撃してしまった。  あの怒りの矛の柄は、昨日のそれだ。 「いやあれは不可抗力だ! きみと相部屋だって知っていたら、ノックの一つでもしたさ」  ようやく普段の調子に戻りかけていたのに、冤罪を掛けられている俺。  またもうんざりしたくなりそうだった。  踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだ。  百日ももつのか? 俺の命。 「へぇ。おじさんは病室前のプレートの確認もせずに部屋に入るんだ」 「だから申し訳ないって。てかなんで俺がしま……よこし……いや、なんでも」  どういうニュアンスでも、誤解を解くのに時間が掛かりそうだった。  だから俺はこの不毛なやりとりに終止符を打つことにした。  ともに過ごす住人とこれ以上険悪になりたくない。  覚えている限り、昨日から謝っているからそろそろ許してほしいところだ。 「なぁ。そろそろ和解しようぜ。若いうちからキーキー言ってると猿になるぞ」  ゴリラに喩えないのが大人の余裕だ。 「私はキーキー言ってるんじゃない。縞々のことを言ってるの。それにおじさん、わたしの方がこの部屋では先輩なんだから敬語で話しなさいよ敬語。会社も同じでしょ?」  ただの猿じゃないな。ボス猿だ。  上下関係は厳しい。  縄張り意識も。 「でも強権をふるっているばかりだと部下に嫌われるのも会社の、てか人間関係の常識だ。きみが猿ではないと言うなら、この部屋の先輩としての振る舞いを改めることを勧めるよ。人生の先輩として」  平社員だから、会社の上司に進言なんて碌にしてこなかった俺が先輩の幼女にアドバイス。滑稽だな。
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