第壱部 ~現代編~ 第一話 久方の 光のどけき 春の日に…

2/4
174人が本棚に入れています
本棚に追加
/301ページ
…2017年春分の日、都内某所… 東京でソメイヨシノの開花宣言をされた翌日だ。 平日の午前中。 道行く人、花見客もまばらである。 久方の、光のどけき春の日に… 生命に希望の息吹を与える春の風は穏やかに頬を撫でる。 雲一つない空は、 パステルブルーに優しく微笑む。 道行けば、 そこ、ここに溢れ出す生命を謳歌する歌声が響く。 例えばこんな風に。 雪にその身を隠していたクロッカス。 凍てつく大地に耐え抜き、 じっと出番を待っていた雪割草。 風と共に春の訪れを知らせるスノードロップ。 白き蝶はチューリップと語らい、黄色き蝶は蓮華草と戯れる。 そう、大地は今、 命の息吹で目覚め始めているのだ。 「もう、春なんだなー」 紅羽(くれは)は川沿いをゆっくり散歩しつつ、 ソメイヨシノの木々のトンネルを見上げた。 ここは自宅から程近くの川沿い。 彼女のお気に入りの場所、言わば「聖地」である。 ソメイヨシノの蕾は、 生き生きと新鮮なピンク色に色づき、 己の花が満開となる時を今か今かと待ち構えている。 穏やかな風と共に彼女達は優しくそよぎ、 木々の間から覗く陽の光が、 命の息吹を見守っている。 紅羽(くれは)・メイヤーは16歳。 来月7日に私立花咲学園高等部に入学を控えていた。 その名の通り、紅羽はハーフである。 父親の名はアントワーヌ・メイヤー、45歳。 細身で高身長。豊かな亜麻色の髪に グレーがかった深く青い瞳がミステリアスなフランス人だ。 高身長、端麗な顔立ち。 …数多くの女が言い寄る中、出会ってから母親一筋の父親。 紅羽はその一途さ、誠実さを尊敬している。 母親、緋鶴(ひづる)41歳は色白で髪も瞳も漆黒の純日本人。 …の筈だが、高く形の良い鼻。 形の良い眉、淡紅色の上品な唇。 漆黒の艶髪は、ストレートに腰の辺りまで伸ばされている。 冴え冴えと澄み渡る大きな瞳は、目尻がキリッと上がっており、 小柄で端正な顔立ちの勝ち気な美女である。 そんな二人の間に生まれた紅羽の容姿を説明しよう。
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!