二人の英雄

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 そんな人々の中に、少年はいた。  歳はまだ十を過ぎた頃だろうか。先ほどまで無邪気に笑い、友と遊んでいたであろう少年は、いまは為す術もなく、群衆の中を翻弄されるままに走り続けるしかなかった……  ――はぐれた友達は無事だろうか……  辺りを見渡しても、その姿はない。  ――近所のおじさんやおばさんは逃げられたのだろうか……  知るものも知らぬものも、等しく死んでいく。  ――早く父さんのところに戻らなきゃ!  少年は無残に破壊された街の中を帰途に着く。  ――そうだ、父さんだ!……父さんは……父さんは……父さんは!?  瓦礫と化した家に、父の姿はなかった。  その時だった――  巨大な存在が、少年の頭上を覆ったのは……  とてつもなく巨大な……皮の翼を広げて長い首を擡げ、自ら吐く光球により引き起こした炎で炙られた、紅い鱗をてらてらと光らせる怪物……  この世の災厄そのものが形を成したとしか思えない存在……大木のような尾を振り回し建物を薙ぎ払い、両手両足の鋭い爪で人々を引き裂いた[龍]が、他の犠牲者同様小さな少年をひと飲みにしてくれようと、巨大な角を持つ顔を近づけ、何人をかみ砕いたであろう顎門を大きく開き、迫る。     
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