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目覚めたら、翼がなかった。
羽ばたこうとしたら、僕の肩には何もなかった。
じりじりと焦げるような痛みに気付いた瞬間、それは、激痛となり全身を駆け巡る。
体中の血管がどくどくと脈打ち、僕の肩から熱い血液が滴り、足元にはどすぐろい沼ができた。
足に巻きつき引きずり込もうとする。
闇へ、底なしの闇へ。
嫌だ、嫌だ、行きたくない。
声をあげる。
その声は、ひとかけらの悩みもない青空のドームに反響し、跳ね返り、すぐそばに佇むクヌギの木にぶつかった。
眠っていたクヌギの木は目を覚まし、大きく背伸びをして、枝を葉を揺らし、潮騒によく似たあくびをする。
「おや、どうしたんだい」
クヌギの木は、僕に気付いた。
「…ないんです」
痛みと翼を失った悲しみのあまり、僕は、それだけを言うのがやっとで。
クヌギの木はただならぬ状況を察知して、枝を伸ばし、僕の身体を包み込むと、幹の根元にそっと降ろしてくれた。
それから、太陽の滴を上塗りしたつやつやとした葉で、僕の身体を優しく撫でてくれた。
痛みが少しだけやわらいだ。
木漏れ日が、クヌギの木の枝の間から、ぽろぽろ零れ落ちてくる。
そのひとつが、ぽろんと、僕の身体に落ちた。
冷え切った体に、あたたかいお湯をかけてもらったみたいで、安らいだ気持ちは、僕のまぶたをゆっくりと降ろす。
僕は名もなき鳥だった。
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