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発症したのは、通勤途中の朝。
愛知県は名古屋市港区、運河沿いのとあるバス停の前。
セミの鳴き声が変わるお盆明け。その日は、朝から蒸し暑かった。
ぶわっと汗が噴き出してきて、手にしたハンカチで額を押さえる、ー その昭雄の右手が、突然見えない何かに引っ張られたみたいに、ぐんと手首から先だけが外側に曲がった。一気に90度近い角度まで。
ぽろっと薄茶色のハンカチが落ちた。
「お、あ・・・・?」
ぐうう、とさらに勝手に曲がっていく手首を見て、昭雄はパニックに陥った。
手首の筋が伸びきって痛かったが、それよりも筋が切れるのではないかという気持ちの悪い恐怖で冷や汗がどっと噴き出してくる。
バチンッ!!
突然、手首がありえない速さで逆に振れた。
自分の手に顔を強打され、指先が目をかすめて、昭雄は声をあげてよろめいた。足元に置いていたカバンに踵が当たって、なんとか踏みとどまる。
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