四海楼の噂【若草通ラプソディ】

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「あ、あのさ…。」 目に入った建物を見て咄嗟に出た。 「四海楼の噂、覚えちょる?」 「はぁ?」 祐介の表情が強張る。 何言ってるんだろう俺は…。目の前にある中華風の建物が「四海楼(しかいろう)」。たぶん宮崎で唯一の中華風の建物だろう。でもこんな建物、中国の映画とかマンガとかでしか見たことないんだけど、本場の建物ってこんな感じなのか?中華風って言っていいのかぁ? たぶん中華風って中華街にあるような、金と赤とで彩られ、煌びやかな飾りがいっぱいの豪華な建物を想像するかもしれない。そうじゃなくて、なんだろ、カンフー映画の食堂みたいな感じ。映画のセットなんじゃないかと思わせるような作りなのだ。 この四海楼は、何と言っても値段が安いことで有名。「ラーメン100円」「焼きそば60円」と戦後の日本かと見間違うほどの値段。味は悪くなく、そこそこ食べれるものだから、結構にぎわっていた。 しかし、その値段が故に色んな噂が絶えない。安すぎるってのも考えものだね。 「はっ、はははっ!何言い出すかと思ったら。」 祐介は、腹を抱え大爆笑している。よかった。会話の選択は間違ったような気がするけど、なにはともあれ、空気は和んだ。 「祐介、引っ越したんだよな。いつ帰ってきたと?」 「先週。おじいちゃんの家がまだこっちにあるから」 祐介のしゃべりには、方言もなまりもない。やっぱり宮崎人じゃないんだな。 「四海楼の噂、懐かしいな。確か…」
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