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「あ、すいません職業病で。こういう雰囲気、落ち着いていいですね……とりあえずジントニックを」
経営者の仕事をしている時より遥かに年相応な緩い顔つきをする彼に、自分が思っていたより気を許してくれていた事を知る。
「此処はマスターのセンスでね。ライムかレモンは?」
「ライムを」
口髭を生やしたマスターは五十代程に見える。カウンターの他の客に対応しながら淡々とグラスを磨く紳士な姿は渋い。
「ところで。単に飲みに来たわけじゃないんでしょ」
自慢のジントニックを差し出し、怜太郎は笑って言った。
如何にも負い目があって『謝りにきました』と顔に書いてある彼からは切り出しにくいかと思ったのだ。
高之も声を抑える。
ここから先の会話は二人にしか聞こえない範囲であるべきだった。
「すみませんでした。あの条件は取り消します……俺が朝陽と付き合ってる事も伏せながらあなたには申し訳無いことを……」
“店で恋愛沙汰は起こさないこと”
言わずもがなの暗黙の了解で『無かったことになっているだろう』事は既にわかっていたが。
あやふやにせずに面と向かって言ってくれるのは怜太郎としても嬉しいものだった。
「はは、まだわからないよ。何か起こすかも」
「いや、そうであってもなくても、条件を出す権利なんて無かったんです最初から。ただ……その」
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