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「えっと、その……もう少しここで休憩したいなぁと思って。櫻君は、先に乗ってね。ほんとにありがとう」
ちひろは心から感謝しながら言った。
すると、悠平はあっさりと言った。
「んー、じゃあ俺もバス見送るよ」
「え!?でも、お友達の家は……」
「あぁ、別に何時になっても平気だし。野郎といるより、ちひろちゃんとここで話してる方が有意義だし」
恥ずかしげもなく、悠平がニッと笑う。
ちひろの方が恥ずかしくなってしまって、思わず赤面してしまった。
すると、また、携帯に瑞樹からのメッセージが入った。
『別に、遅らせなくていいから。』
文面に驚いて瑞樹に目をやる。
両腕を組んでこちらを見ていた瑞樹が、「乗れ」と口を動かした。
訳がわからず暫く呆けていると、何故だか痺れを切らせた様子で瑞樹がズカズカとこちらに近付いてきた。
恐ろしさに、ちひろはヒィッと後退る。
瑞樹はニッコリと微笑みながら、躊躇いなくちひろに声をかけてきた。
「あぁ、やっぱり吉村さんだ。今から帰るの?」
二人の時には絶対に見せない爽やかな笑顔が、ちひろの背筋を凍り付かせる。
(こ、この人は一体何を企んでるの……!?)
ちひろが驚くのも無理はなく、小学生から今現在の高校2年生まで、ただの一度も、外で瑞樹から声をかけられた事はない。
小学生の時、帰宅途中にちひろが男子からいじめられていても、瑞樹はスッと素知らぬ顔で通り抜けて行ったし、中学生の時、犬に追いかけられていても、見向きもしてくれなかった。
彼は、外では徹底してちひろを避けていたのだ。
それが今、何を思ったのか、同じ学校の生徒がいる前で、馴れ馴れしく声をかけてきている。
あまりの動揺に、あわあわと口を動かすしか出来ないでいると、瑞樹の標的が悠平に向けられた。
「あ、こんにちわ。吉村さんのお友達?」
「え?あ、うん」
悠平は初めこそ戸惑っていたが、持ち前の高いコミュニケーション能力であっけらかんと続けた。
「俺、あんた知ってるよ。月城瑞樹だろ?すっごい有名人じゃん」
「はは、そんなことないよ。それより、君は?」
「あぁ、俺はちひろちゃんと同じクラスの櫻悠平。ってゆうか、ちひろちゃんと月城君って知り合いだったんだ。意外だね」
「あぁ、家が近所なんだよ。まぁ、顔見知り程度かな」
「へー、そうなんだ」
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