大須なもなも

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 一言で断ってしまった私に、当然の如くナルセが食らいついてくる。 「ダメ? 何で? ちょっと付き合ってみよーよ、まずはお試しで!」 「いや、いい。苦手なタイプだもん、うまくいく気がしない」 「そんなっ、判んないじゃん?」 「ぃや、ごめん。傍にいると、何かメゲる」 「メゲる? ……苛つくんじゃなくて?」  しまった、そうか。その表現の方が、流れとしてはしっくりきただろうか。何でメゲるなんて言ってしまったのか……いや、理由など明確だ。  ナルセの天衣無縫ぶりは、私の弟に通じるのだ。おばあちゃんに心底可愛がられ、何をしても喜ばれ、笑顔で以て迎えられた弟に。  勿論、私が可愛がられなかった訳では全くない。しかし、おばあちゃんの一番可愛がっていた娘が産んだ男孫の特別感は、何にも替えがたい様子だった。『目の中に入れても痛くない可愛がりよう』を、私はずっと目の当たりにしてきた。  母は、私も弟も平等に接していた。と言うか、働いていた母が私たちに関わる時間などあまりなかった。  そして父は、祖母の無意識のえこひいきを不愉快に感じていたのか、近所に住み口も手も出してくるこの祖母を鬱陶しく思っていたのか、目に見えて私を可愛がってくれた。ただ父は、本質的なところで父自身が一番大切で、自己中心的だった。そして母以上に、私たちと接する時間などなかった。  私は、多分、 「ナルセ君の隣で、楽しく幸せでいられる自信、ない」  今まで、どうあがいても満たされることはなかった。  それが後ろめたくて、それでも幸せを装うしかできないでいる。  愛されてないとは思わないし、これ以上を無理強いしてはいけないと判っている。それでも、幸せな楽しい時間が私の外側をスルリと滑り、ただ通り過ぎていってしまう感覚を、どうしても否定できない。  今ある幸せを、私の持てる最大の幸せだと思えない貪欲な自分がいる。  そしてそれが、また、とても、後ろめたく恥ずかしい。
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