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挫折
彼女は走った。友のため、約束のために。ひたすら走った。期限は夜明け、鶏が一鳴きして教会の鐘が鳴り終わるまでだ。時間がない。
見た目城のような建物に駆け込み、大階段を無休止で駆け上がる。そして少し廊下を疾走し、目的の扉を勢いよく開け放った。
「おはようございます!」
ゴーンと遠くで鐘が打ち終わる。間に合った。
部屋の前側に立つ青年が呆れたように溜め息をつく。それも中々絵になる顔立ちだ。
「……あのな、ユレカ。誰も鐘と同時に来いとは言っていないぞ。むしろ鳴り出す前に来いって言ったぞ。なのになんだそのどや顔は」
「間に合いました! それでいいじゃないですか」
三十名程の様々な視線を浴びながら、先程まで注目されていたであろう青年に笑いかける。
青年も負けじと笑みを浮かべた。
「ユレカ。お前、実習の優等生じゃなかったら三回は退学食らってること忘れるなよ?」
「はーい」
悪びれずに笑って席につくと、青年はもう一度諦めの溜め息をついた。
ここ、リミュール魔導学院は、魔法使い、つまり魔導師の養成学校である。魔導師は多彩な魔法を使い、魔獣を従えるのだが、ユレカという名のこの少女はその道において天才的な才能を有していた。
「――それじゃ、全員揃ったから演武場に行くぞ」
その一声で一斉に人が動き、部屋はあっという間に空になった。残ったのは少女二人だ。一人はユレカ、もう一人は友人のメルである。
「おはよう、ユレカ。今日も朝から元気ね」
「メル、おはよ。そりゃ、今日は実習の日だもん。元気も出るでしょ!」
「流石だわ。私なんて……」
しょんぼりしてしまった友人は、たしかにお世辞にも魔法の使い手とは言えない。
それでも、ユレカだけは彼女の可能性を信じていた。
「メル! くよくよしないの。メルだって、コツさえ掴めば魔獣とうまくやっていけるよ!」
「ユレカ……」
ユレカの笑顔に瞳を潤ませ、メルはユレカに抱きついた。
「ユレカは優しいね。ありがとう。大好きよ」
「私だって! 今日もメルのサポートするために、遅刻しないで来たんだもん」
その言葉には、ユレカと向き直って苦笑を返す。
「ギリギリだったけどね」
「間に合えばいいの! さ、皆に追い付こう! ラビス教官に怒られる」
「それは不本意ね。急ぎましょう」
二人は同時に駆け出し、部屋を飛び出した。
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