出会い

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出会い

南西の空、宵の明星が輝いた。 暮れなずむ空、高積雲を残し、西側の地平線は煌びやかな橙色に染まっていく。 「さぁ、今日も仕事だ。いくぞ」 呟くようないつもの一声が上がると、皆一斉に個々の任務に向かった。 「ねぇ、佐藤くん。明日は一雨きそうだね」 「そんな事は関係ない。天の邪魔入りはいつものことだ」 出発の号令をかけた俺は、斎藤に素っ気ない一言を残し目的の街へ、一人向かった。 今日の任務の相手は、相沢理乃。 無遅刻無欠席で、生真面目な高校生活を送り、卒業式を終えたばかりの18才の女だ。 ただ平凡なだけではない。 両親はおらず、祖父母の元で暮らしていたところ、受験に失敗。 人生のレールを少々踏み外したところだ。 所属場所を失った人間ほど懐に入りやすい。 夜の帳も負の感情を強め、俺に味方してくれる。 待ち合わせの駅前南口のベンチに深く腰掛けている女がいる。あれに違いない。 「こんばんは。相沢さんですか?」 「は、はい。あの...」 相沢理乃はか細い声で伏し目がちに応えた。 「あの...佐藤さん...?」 「はい、そうですよ。初めまして。」 ベンチの横に腰掛けようとすると、彼女は自分の横に置いていたバッグを膝上に置いて抱え込んだ。 「いや、まさかこんなスーツとネクタイで来られるなんて思わなくて。私なんかダッフルコートとスニーカーにニット帽ですよ。子供丸出しじゃないですか」 「良いんじゃないですか?似合ってますよ?」 「しかも、こんな人来ると思わないし!何ですか!?容姿端麗!?モデルですか!?本業何ですか!?」 彼女は興奮気味に俺を見やる。こんな様子はいつもの事だ。だけど違うのは、高揚感がないところだ。 「もしかして君、俺のこと敬遠してる?」 「だって、怪しいじゃないですか?あなたみたいな人、SNSサイト頼らずにも女に困らないでしょ?」 「あの、元気が良いね。って言うかストレートだね」 俺は取り敢えず苦笑いで返した。 「結婚詐欺師とか、そこまでなくても恋愛詐欺師?」 「そんなに警戒しなくても。今日は話を聞く約束でしょ?詐欺もしないし、悪い事は何もしない」 今日は。
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