いない=いる

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いない=いる

田中氏の職場は地方都市に林立する、とある雑居ビルの五階に存在している。文具や備品を仕入れ、学校や事務所へ卸すことを仕事にしており、彼は備品の数量管理を担当していた。 数量を間違っては業務の滞りも発生するし、卸し先に迷惑をかけてしまう。 田中氏は作業の重要さを理解していたし、周囲から信頼を寄せてもらえるほどは労働に意欲を持っていた。 ただ、無数の数字を素早く、正確に計算して報告するには多大な集中力を必要とする。そこで田中氏は、昼食後の集中が途切れてくる午後二時ごろになると、給湯室でコーヒーを飲むことを日課にしていた。 その日も、時計の針が午後二時五分前を指したのを確認すると、田中氏は引き出しから紙コップとコーヒーのドリップパックを持って給湯室に向かった。
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