だしの香りは思い出の香り

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ここは、常連客と店の評判を聞きつけた人たちが集まり、そして愛している洋食屋『グリル ゆさ』。 カウンター数席とテーブル席が5席ほどの小さな店。 外観は落ち着いた雰囲気があり、内装には懐かしさのような温かみが感じられる。 時刻は、午後四時。 夕焼けが迫る空はどこか郷愁感を漂わす。 そんなひと時を城山は同級生だった遊佐直樹の店でゆったりと過ごしていた。 城山の仕事は雑誌記者だ。 だから、取材次第では遅い時間まで働くことになるが、時には時間に自由がきき、明るいうちからここで過ごすこともある。 今日もそんな風に過ごす一日だった。 片や遊佐が営むこの洋食屋の店員・菱川は、お客の流れが落ち着いたこの時間、必要な場合にはディナーの準備をしながら、店内の清掃をしたり、城山の相手をしたりする。 二人とは菱川が小学生の時からの知り合いであり、中学で先輩となった二人に対して憧れと尊敬の念を抱いてきた。 そんな菱川にとってこの空間と時間は何よりの宝物だ。
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