Y染色体ネオアダム

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Y染色体ネオアダム

 Y染色体アダムとは現在生きている全男性の祖先となる男性をさす言葉である。  諸説あるが、紀元前五十八万八千年前に存在したと言われている。  数十万年も経てば現在生きている男性のY染色体を持つものも少なくなるだろう。  やがて、いま生きている誰かが新たなY染色体アダムとなる瞬間が来るのだ。  ――あなたは幼かった。  覚束ない足取りで歩きながら門扉を見つめている。手を引く下男の巨体を怖がっていたはずだったが、門扉の意匠の曲線に見入って、やがて目を回してしまう。  邸宅の玄関への道を下男に負われていくあなたはこの三日後、三度目の誕生日を迎える。  誕生会は歓迎会としての意味合いもあった。名家の六男として迎えられていたのだ。  大広間には巨大なダイニングテーブルがあり二十脚の椅子が並んでいた。テーブルには料理が所狭しと並べてあり、上座には父の姿があった。あなたはその傍らの子供用の椅子に座っていた。  母親と長兄を除く四人の兄は手を叩いて祝ってくれた。下男も女中たちもやはりあなたを歓迎する。とてもじゃないが食べきれないほどのご馳走にあなたは夢の世界を眺めるがごとく目を輝かせていた。場にいる全員が笑顔であり、あなたもまた楽しかった。
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