俺の事情

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「あっ、来ました」 駅前ロータリーに白の軽乗用車が入ってきて、彼女は小さく手を挙げて合図した。 彼女の親に挨拶すべきか? 恩着せがましくないだろうか。 でも、ここで逃げ出すように帰ったら、下心があったと疑われるかもしれない。 慌てたように車から駆け寄ってきたのは、母親らしき中年女性だった。 「茉奈、大丈夫なの?!」 「今はちょっと痛くて歩けない。ヒビ入ってるかも」 「じゃあ、南風会病院に行こう。あそこなら救急、やってるから」 そんな2人のやり取りを聞きながら、この小柄な女性では娘を車に乗せるのは無理だろうなと考えていた。 やっぱり残って正解だ。 「この人に助けてもらったの。ここまで運んでくれて」 「ありがとうございました。改めてお礼に伺いたいので、差し支えなければお名前とご住所を教えていただけませんか?」 「いや、当たり前のことをしただけですから。それより、娘さんを車に乗せるのに手を貸しましょうか?」 恐縮する母親にリュックとトートバッグを預けて、俺は女子高生を姫様抱っこして助手席に乗せた。 「……じゃあ、お大事に」 深々と頭を下げる母親と真っ赤な顔で照れている女子高生に背を向けて、俺は南口に向かいながら空を見上げた。 何だよ、これ。栄養ドリンクよりも効くじゃないか。
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