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エリスは走っている。長いスカートの端を手繰り、紅く染まる唇で息を切らす。古い石畳の街角を曲がり、港の見える広場に向けて。今日は年に一度のカーニバルの日、古い街の門が開きジプシー達が招かれる。年に数日の自由が訪れる日。
人ごみに溢れたジプシーのテントの海を、エリスはひらひらと舞う魚の様に駆け抜けると、やがてみすぼらしいテントの前で立ち止まった。「魔女だわ!」表から僅かに覗く薄暗い闇の中に、皺くちゃな老婆が一人浮かび上がっている。エリスの心が高鳴った。
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