満月 ー フルムーン ー

1/20
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

満月 ー フルムーン ー

王子は舞踏会に飽いていた。 溜め息の数を誰かかぞえてみてくれ、と命じたくなるくらい ー 。 だから一際煌びやかな馬車が着いたと周囲がざわついても、さして気にならなかった。 それよりも、と柱の陰に控えた美貌の従者に国境の動向を報告させる。 あからさまに国境近辺で軍事演習を繰り返す隣国の挑発を、どう受けるべきか。 病床の王は容態が深刻で、もはや他国の情勢を把握して軍の指揮を取ることはできない。 だがその事実は伏せてある。 ゆえに、セシリオ第一王子は、今夜もいつも通り婚約者探しの舞踏会に出席せねばならないのだ。 は、と短い嘆息がこぼれて、王子 - セシリオは首を振った。 濃い金髪がシャンデリアの光を弾いて煌めき、天井を仰いだ蒼海の瞳は、天窓に滲む月明かりを映す。 「こんな時に舞踏会とは、俺は馬鹿になった気分だ」 くす、と隣で忍び笑う気配がした。 「前回は間抜けな気分、でしたね。その前は、厩番の息子に生まれたかった、と。次は、いっそ姫になりたい、とでも仰いますか?」 「いや、次はない。もう誰でもいいから婚約者を作って、舞踏会など取りやめる」     
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!