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満月 ー フルムーン ー
王子は舞踏会に飽いていた。
溜め息の数を誰かかぞえてみてくれ、と命じたくなるくらい ー 。
だから一際煌びやかな馬車が着いたと周囲がざわついても、さして気にならなかった。
それよりも、と柱の陰に控えた美貌の従者に国境の動向を報告させる。
あからさまに国境近辺で軍事演習を繰り返す隣国の挑発を、どう受けるべきか。
病床の王は容態が深刻で、もはや他国の情勢を把握して軍の指揮を取ることはできない。
だがその事実は伏せてある。
ゆえに、セシリオ第一王子は、今夜もいつも通り婚約者探しの舞踏会に出席せねばならないのだ。
は、と短い嘆息がこぼれて、王子 - セシリオは首を振った。
濃い金髪がシャンデリアの光を弾いて煌めき、天井を仰いだ蒼海の瞳は、天窓に滲む月明かりを映す。
「こんな時に舞踏会とは、俺は馬鹿になった気分だ」
くす、と隣で忍び笑う気配がした。
「前回は間抜けな気分、でしたね。その前は、厩番の息子に生まれたかった、と。次は、いっそ姫になりたい、とでも仰いますか?」
「いや、次はない。もう誰でもいいから婚約者を作って、舞踏会など取りやめる」
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