コトの前

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『そのままでは、その者たちは持ちません。』 不意に空から声がする。 乙女は空中で止まり、辺りを見回す。 そこで初めて麦と小麦の異変に気付いた。 耳を押さえて苦しんでいる麦。 すでにグッタリしている小麦。 「どうしたら……!」 『この空間に耐えられる形に…そして、願いを叶える試練をここで受けますか?』 乙女は迷わなかった。 何も無くすものもない地上に、麦と小麦以外の未練など無い。 「受けます。」 『では…』 2人と1匹は淡い光に包まれる。 『乙女はスピカ、麦と小麦はアークトゥルスとして、人々の願いを誘って下さい。』 夜空に輝く夫婦星。 憎んだ人々から願いをかけられる存在へ。 目を開けたスピカに小さな猫ような姿に変わった麦…アークトゥルスの姿が…。 「なんで…?」 麦の大きな手が好きだった。 もたれる背中の広さが好きだった。 『あなたたちが抱えた憎しみが消えるほど、誰かの願いをその身に感じるほど、あなたたちの願いは叶います。』 『試練、受けますか?』 試練を全うすれば、あの世界での願いが叶うの? 涙を振り払い 『受けます』 スピカは蒼空を睨み付けて答えた。
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