厭世的天体観測

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深い黒色の空を見上げ、いつも何かを願っていた。 例えば五歳のころ、「誰よりも強くなりたい」と望んだ。ひと際輝く星に向かって、目を閉じ、合掌した。隣にいた母親に尋ねて、その星の名前はシリウスというらしいことがわかった。星に名前があることさえも知らなかったくらいで、当時は大発見をしたように喜んだのを憶えている。 結局、願いは叶わず、いじめっ子相手の喧嘩に勝つことはできなかった。母親は、「強くなる必要なんてないじゃない」と微笑んだ。でも、勝ってみせたかったのだ。傷が増えるたびに、母親が悲しい目をするからだ。 十歳のころ、「少しだけでもいいから、足が速くなりたい」と願った。前回のときは、目を閉じてしまったから駄目だったのかもしれない。そう思い、目を見開いて合掌した。その時に見ていた星は、ベガだった。シリウスを知って以来興味を持ち、図鑑などを読んでいたため、その星の名前はすでに知っていた。 図鑑を読んでいるにしても、大半の星の名前は把握できていなかったが、ベガはあまりにも有名だった。アルタイル、デネブ、ベガの三つで、夏の大三角形というのは、星に興味がなくても知っている人がいるほどだ。     
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