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「……ごめんください……」
玄関から微かに声がした。
サクばあちゃんから留守番を任せられているのでなければ、気が早い蚊が飛んでいるのだと割り切って昼寝に戻るところだ。
「はい」
玄関の戸を開けると、細身の女性が立っていた。
今にも消え入りそうだ。
「ああああの、せせせせ先生は御在宅でしょうかかか」
「御在宅ならば俺が出てくることはないな」
サクばあちゃんは習字の先生もしているから、女性は生徒さんだろう。
「こ……この作品の添削をお願いしたく……」
「あ、ならそこに置いといて、渡しとくから」
俺が部屋に戻ろうとすると、女性が慌てた。
「あわあわわ、いえ、先生から、お孫さんも添削はできるから、自分がいなければ頼みなさいと……」
「なぁんだって?」
「ひぃぃ、すみません、先生がそう仰って……」
「俺があんたを責めてるみたいじゃないか、謝るな」
「ごめんなさい」
「……」
釈然とはしないが、サクばあちゃんの言いつけを無視するのは危険だ。
俺は女性から作品を受け取った。
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